1483 見果てぬ夢 [詩・エッセイ]
「見果てぬ夢」
手紙もまともに書けないような劣等生が、
頭の中に空洞が出来、
後期高齢者になったというのに何をとち狂ったのであろう、
400字詰め原稿用紙に換算して368枚の作品
「神田神保町物語・月の舩」
最初にして最後になる文学賞に応募してしまった。
年寄りの冷や水、
辞書には高齢に不相応な危ない行為とあるが、
「ラ・マンチャの男」の中で歌われている
見果てぬ夢のように、
最期まで見終わらない夢、
心残りなことや実現不可能なことのたとえであるが、
それでもわたしは挑戦したいと思って
応募してしまった。
でも、創作するという行為は楽しいものである。
「小説家見て来たような嘘を言い」
ホントは、
講釈師見て来たような嘘を言うが本家らしいが、
誰にも束縛されるでもなく、
自分の気が向く儘に、
やりたい放題に書ける醍醐味は至福の極みである。
それに自分の実力よりは遥かに好いものが出来たと、
何時も乍らの自画自賛である。
もう次の題材が書きたくて書きたくて、
うずうずしている自分の年齢は
十七歳になったばかりである。
1482 いとおかし [詩・エッセイ]
この詩は、
小説「神田神保町物語・月の舟」の中のエピローグに使われているもので、
プロローグ「白い帽子」の対を成すものです。
「いとおかし」
闇の森に
月が浮かぶ
ふと息をとめるほどに
いとおかし
万葉の昔から
月の舩は
人々の想像力をかきたててくれる
陽が沈むころ
蒼いとばりのなかに浮かんだ
吃驚するような大きさの
真っ赤な月は
荒ぶる漢(おとこ)のように
禍々(まがまが)しくもあり
猛々しく
暴力的でさえあり
人を怖がらせる
その同じ月を
別の時間に観ると
おだやかで
ひかえめで
のんびりしていて
しなやかで
美しく
物静かに
微笑んでいる
あの女(ひと)のように
心にしみいる優しさに満ち溢れている
月を観ると
ふと息をとめるほどに
いとおかし