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1141 龍のバス [詩・エッセイ]

「龍のバス」
 
暗くなって
最終のバスで帰って来る母ちゃんを迎えに
八人兄弟の末っ子である小5のぼくと
三つづつ年の違う二人の兄と
提灯に蝋燭の火を灯して
大きな山の中にある襤褸家を出て
谷底にあるバス停に向かった
 
父は去年の冬に亡くなり
姉たちは街に働きに出て
大家族だった家は
母とぼくたちだけの四人になってしまった
 
獣道のような山道には
夏草が多い茂り
蛍はぼくらのそばを
青い放物線をジグザグに描きながら飛び交っていた
夜空には
月は満月にちかく
満天の星たちが煌めいているので
提灯の明かりなどいらないくらい明るい晩だったが
明かりをつけたまま歩いた
 
ぼくはチャンバラ用の竹の刀を持って
はみ出している夏草を蹴散らしながら
山道を下りていると
暗い闇の谷底を流れる河辺川が
夜の光を浴びて鈍色に光っていた
 
山道を中ほどまで下りたころ
谷底の川の形に沿って作られた道路を
まるで生きている龍が暴れ回っているように
バスの白く光る二つの光線が
ぐるぐる砂利道の道路を照らし
カーブを回るごとにぐるぐると山襞を照らし
大きな岩のある岩谷のバス停にとまった
 
バスの明かりから三人が降りたのが分かった
バスが動き出すと
さっきと同じように
白く光る二つの光線を吐き出しながら
闇の底に消えて行った
 
二つの影が消えると
夜の光は一つの影を残していてくれた
その影に向かって
三人兄弟は口々に大きな声で叫んだ
 
「かあぁぁぁぁぁぁちゃゃゃゃゃん・・・・・
かあぁぁぁぁぁちゃゃゃゃゃ・・・・・
かあぁぁぁぁぁちゃゃゃゃゃ・・・・・
むかえにきたよぅぅぅぅぅ・・・・・」
 
夜の闇の中で
虫やカエルの声を黙らせ
ぼくたち三人兄弟の声が木霊した
その後に
「おぉぉぉい・・・かえってきたよぅぅぅ・・・」
母ちゃんの声を聴いたとたん
三人は
谷底目掛けて駆け下りて行った
 
 
 
 

nice!(64)  コメント(44) 

nice! 64

コメント 44

oko

待っていたお母さんがバスから
降りて来てホントに嬉しそうな
情景が浮かぶ様です。
家族の暖かみが伝わりました。
by oko (2012-04-19 06:14) 

未来

okoさんへ
ありがとうございます。
家からはかなり遠いところにあるバス停なんですが、
曲がりくねった道路や山襞を照らす二つの光線を今でも思い出します。
by 未来 (2012-04-19 06:18) 

シラネアオイ

おはようございます!
6人兄弟の上から3番目、一番下が長女でした!
山で育って似たような思いが浮かびます!!
by シラネアオイ (2012-04-19 07:32) 

未来

シラネアオイさんへ
今は兄弟の居ない子供たちが多いそうですが、
やっぱり兄弟は多い方が好いですね。
よく兄弟喧嘩はしましたが。
by 未来 (2012-04-19 07:40) 

mimimomo

おはようございます^^
兄弟三人でお母さんを迎えに行くその情景が
伝わってきますね~ お母さんの『帰って来た』その声に喜ぶ
姿が『谷底めがけて駆け下りる』と言う言葉に凝縮されているような・・・(^^
by mimimomo (2012-04-19 08:12) 

リック

情景が目に浮かびます、素晴らしい!
by リック (2012-04-19 08:55) 

吉之輔

お早うさんです、とても心をうつ詩ですね、目に浮かぶ
ようです、お尋ね頂きナイス&コメント有り難う、
此からも宜しく願います。まずはお礼まで。
by 吉之輔 (2012-04-19 09:21) 

yakko

お早うございます。
全ての景色が目に浮かびます・・・
夜の闇に木霊する三兄弟の声、それに応えるお母さんの声 !
家族の幸せの原点ですね (*^_^*)
by yakko (2012-04-19 09:24) 

未来

MIMIMOMOさんへ
ありがとうございます。
母親が少しの間でも傍に居ないと、
子どもは不安になるもんですね。
こんなに歳をとったのに、まるで昨日のように思い出されます。
by 未来 (2012-04-19 10:38) 

未来

リックさんへ
ありがとうございます。
母親は子供たちにとってすべてですね。
母親がいないと、空気まで薄くなったような感じがします。
by 未来 (2012-04-19 10:44) 

未来

吉之輔さんへ
ありがとうございます。
何処に行くのにも纏わりついていたので、
母親が居なくなると大変でした。

by 未来 (2012-04-19 10:52) 

未来

YAKKOさんへ
ありがとうございます。
あの頃は、父が亡くなって貧乏のどん底だったのに、
自分は不幸せだと思ったこともありませんでした。
ほんとうに、幸せの原点かもしれません。
by 未来 (2012-04-19 11:20) 

の

様子が映画のように分かりますデス
そかそか、、、、♫
ウチの周りがマサにそんな感じ、、、
都会では少ないと言いますが
「蛍!飛び交って」☜(・・;)。。。ハイ~(^^)/、、飛んでますゥ
けど、、バスも自動車も来ないし信号もない「山中」~(/_;)、、デスゥ

by (2012-04-19 11:45) 

gwan3

映画のシーンみたいですね。
ねこバスならぬ龍バス。
下り坂で勢いをつけたら、ぶゎっと空を飛びそう・・・^_^)v

心細かったり、いろいろご苦労もあったのでしょうが、とても幸せそうに感じます。
幸福感は人様との比較で感じるものでなく、ひとりひとりの心の中にあるのだということが、この詩をよんでよくわかります。
by gwan3 (2012-04-19 14:03) 

ゆうみ

三兄弟を心待ちにしていたお母様のお気持ちが声になったのね。

by ゆうみ (2012-04-19 14:58) 

スマイル

未来さん こんばんは
亡くなった父の実家も山奥にありました。
バス停まで、かなりの距離があったのを覚えています。
幼いころの記憶が未来さんの体験とオーバーラップ
しました。
未来さんご兄弟がお母様を思う気持ちが手に取るとうに
伝わってきました。かあちゃん、かあちゃん、かあちゃん・・・
かあちゃんのことで心の中は一杯。
だからどんなに遠くても険しくても、物ともせずにバス停へ
まっしぐら~しかも兄弟だからこそ分かち合える気持ち。
わかります。
私も姉と同じような体験をしたことがあります。
出会えた時の歓びと言ったら、母子ともども相当なもの
ですね。
心があったかーくなりました。
最高の家族愛ですね♪
by スマイル (2012-04-19 19:59) 

citron

子供にとってお母さんは特別な存在ですね。
会えたそのことだけで暖かい気持ちでいっぱいになりますね。
私の思い出はバスではなく電車でしたがいつも降りてくるのを
待ちわびていた自分がいました。
切ないような嬉しいような~今では大切な思い出でもあります。
by citron (2012-04-19 20:15) 

ちな

駆け下りていく表情が目に浮かぶようです。
幸福なこと、日常そのものが幸福なのですよね。
by ちな (2012-04-19 20:16) 

ため息の午後

なにか新見南吉のお話を読んでいるような
気分になりました(笑)
by ため息の午後 (2012-04-19 20:31) 

あゆさこ

 未来さん、読んでるうちに胸が熱くなり、涙が込み上げてきました。
 未来さん達の家族の様子が、目の前に表れたのです。
 昔は、兄弟姉妹が多い分、繋がりも沢山あるわけですよね。思い出も、その分沢山。未来さんは、8人兄弟の末っ子なんですかぁ。(*^_^*)甘えっ子ちゃんで、一番可愛がられたのでしょうね。お父さんが、早く他界されたようですが、家族にホローされて、良い子に育ったのでしょうね。(^.^)V
 お母さんは、女手一つで、未来さん達を育てられたのですね。それだけ、お母さんへの愛情は深いでしょうね。(^.^)
 私が小学生の時、祖母と二人でいた時、叔父から電話があったんです。二人で話している中で、「は~い。」と祖母。あとで、どうして返事したのか聞いたら、叔父が、「おかあちゃん!」と、呼んだんですって。だから、「は~い。」と、返事したとのこと。男の人って、母親は、特別な存在なのでしょうね。(*^_^*)私は、小学生ながら、叔父がとても可愛く思えたんです。祖母は、やさしい人でした。叔父は、30年前に他界、そして、明日が、祖母が他界して14年目の命日なのです。涙が、出てきてしまいました。こんな話があるので、未来さんの詩を読んで、涙が込み上げてきてしまったのですね。
by あゆさこ (2012-04-19 20:47) 

zak

いつもすごくリアリティな世界が
想像できるとコメントしていますが・・
そう、まるで物語を読んでいるような・・
本で言うと、次を読み進めていきたくなるような
展開なんだ・・ だからおもしろい。
by zak (2012-04-19 22:37) 

未来

の さんへ
ありがとうございます。
蛍は、僕が子どもの頃には沢山居たのに、
この頃では観なくなり、最近では遠いところにまで
蛍を観に行っているそうです。
の さん所では今でも蛍が観えるなんて素晴らしいです。

by 未来 (2012-04-20 06:33) 

未来

gwan3さんへ
ありがとうございます。
僕の田舎は、山奥なので道路が曲がりくねっています。
暗くなってバスが通ると、バスのライトがあちらこちらに当たって、
まるで龍の眼のように感じていました。
借金を残して親父が死んだので、経済的にはどん底だったのですが、
想い出が一杯残っています。
by 未来 (2012-04-20 06:40) 

未来

ゆうみさんへ
父が亡くなって一年が経った頃だったので、
家族が傍にいるだけで有難かったのだと思います。
それに、母親はやっぱり特別な存在ですね。
by 未来 (2012-04-20 06:44) 

未来

スマイルさんへ
ありがとうございます。
父が亡くなって一年くらいたったころでしたから、
家族も少なくなり、三人で母の帰りを待っていると、
とても寂しい気分になってしまったのを覚えています。
スマイルさん姉妹も同じような経験をされているから
分かると思うのですが、暗い夜道を歩いていると、
なおさら母親が恋しくなるもんですね。
by 未来 (2012-04-20 06:56) 

未来

citronさんへ
ほんとに、母親だけは特別な存在です。
citronさんが指摘されているように、
母親を待っている気持ちは、
切ないような、嬉しいような、不思議な気持ちがありましたね。

by 未来 (2012-04-20 07:01) 

未来

ちなさんへ
母親が傍にいてくれる、
それだけで子どもは幸せを感じることが出来るんですね。
暗い夜道を歩いて、幾たび迎えに行ったことでしょう。
by 未来 (2012-04-20 07:06) 

未来

ため息の午後さんへ
ありがとうございます。
とっても光栄です。
都会と違って田舎は、人と人の繋がりは濃密になるのではないでしょうか。
by 未来 (2012-04-20 07:22) 

未来

あゆさこさんへ
心を込めて読んで下さり、ほんとうにありがとうございます。
そうなんです。今でも甘えん坊です。
でも兄弟が多いのは好いですね。
分け前が少なくなったり、兄弟喧嘩なんかしたりもしますが、
そこには人としての繋がりや、ぶつかり合うことによって
人間として必要な事を勉強したのだと思っています。
それに比べて、今の子どもたちは気の毒です。
人と人がぶつかることがないので対人関係が上手くいきません。
あゆさこさんの家族の話、とっても素敵ですね。
by 未来 (2012-04-20 08:30) 

未来

zakさんへ
とても素敵に読んで下さり、ありがとうございます。
zakさんに、そんな風に読んで頂けるなら、
もっと書きたいというような気分になってしまいます。
意欲をかきたてて下さり感謝しています。
by 未来 (2012-04-20 08:39) 

タックン

かあぁぁぁぁぁぁちゃゃゃゃゃん・・・・・
闇にこだまするその声が聞こえてくるようです。
8人のお子さんを育てたお母さま 大きな大きな方だったのですね。

詩も とても幻想的ですね。
by タックン (2012-04-20 20:59) 

とうふさん

とうふさんも小学生のある夏の夜、帰りが遅い母を迎えに
父と弟と歩いてて、田んぼに蛍が飛び交ってた光景を
思い出しました。

そう、でも、未来さんのストーリーとスケールは全然
違うんですが(笑)

お母さんの姿が見えた時の安心感、あれって何でしょうね。
今でもそんなシーンを思い出すと、胸がキュンとします。
by とうふさん (2012-04-20 21:12) 

ふぢたしょうこ

目閉じれば情景が浮かびます。
お母さまって子供たちの太陽ですよね。

by ふぢたしょうこ (2012-04-21 00:13) 

未来

タックンさんへ
ありがとうございます。
小説を読んだり、映画をみたりするのが好きだった母に、
僕が一番似ていると言ったら、
皆に総好かんを食らいました。
僕のような男に似ていてほしくなかったみたいです。
by 未来 (2012-04-21 05:39) 

未来

とうふさんへ
いえいえ、とんでもない、
時代や舞台装置は違うかもしれませんが、
母を迎えに行く、あのときの気持ちは誰も変わらない
ものだと思います。

母の居ない不安と、出会えた時の嬉しさは、
子どもにとっては共通のものだと思います。

by 未来 (2012-04-21 05:51) 

未来

ふぢたしょうこさんへ
ありがとうございます。
ほんと、ほんと、子どもたちにとって母親は太陽であり、
月でもあり、生きていても、死んでしまっても、
母親は現人神でもあるんですね。

by 未来 (2012-04-21 05:56) 

きょん

暗闇の中から子供たちの声、お母さんもうれしかったことでしょうね。
お互いがいることが分かった瞬間、夜だけどぱっと明るい光がわきでてくるような嬉しい気持ちでいっぱいになりました(^^)
by きょん (2012-04-23 12:42) 

つなみ

お互いを愛する素晴らしいご家族ですネ("⌒∇⌒")
不安な夜道、元気になる夜道
大好きなお母様のお声は
にび色のひかる川面と対比して
さぞ黄金色でしたことでしょう。
by つなみ (2012-04-23 16:11) 

未来

きょんさんへ
大家族だったのに、父が亡くなり、姉たちが働きに出て、
寂しくなっていましたから、なおさら母親が大切に思えました。
お互いが、とても大切な存在でした。
by 未来 (2012-04-23 19:04) 

未来

つなみさんへ
ありがとうございます。
夜というのは不思議なものですね。
暗くなると、とても不安な気持ちになってしまいますし、
母が恋しくなってしまいます。
by 未来 (2012-04-23 19:07) 

じゅりあん

待っていたのは未来さんご兄弟だけではなくて
お母様も同じ気持ちだったのでしょうね。
お子さんの顔を思い浮かべて、声を聞いて・・きっと
嬉しくてしょうがなかったでしょうね。(*^_^*)
by じゅりあん (2012-04-25 23:23) 

未来

じゅりあんさんへ
きっとそうだったのだと思います。
以前は大家族で暮らしていたのですが、
父が亡くなり、姉たちが働きに出ていくと寂しくなってしまいました。
by 未来 (2012-04-26 07:06) 

ゆめ乃

情景が目に浮かび、子供たちの気持ちが手に取るように伝わってきます。
言葉も映像を飛び越えられるのですね。
きれいで、ちょっぴり怖くって、すっごくうれしくなる。
すごくステキな作品ですね。
読ませてくださって、ありがとうございます。
一度下まで読んで、ナイスを付けに戻ってくると、
読み返しが出きるのでとても楽しいです^^
by ゆめ乃 (2012-05-30 20:13) 

未来

ゆめ乃さんへ
読んで下さり、ありがとうございます。
最上級の褒め言葉を頂いて感激をしています。
ほんとうに、ありがとうございます。
僕は、勉強が出来なくて、とんでもない劣等生でしたが、
子ども時代の想い出が、たった一つの財産かもしれません。

by 未来 (2012-05-31 07:42) 

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